偏見差別相談事例

患者さんやご家族から寄せられた
実際の相談事例を紹介しています。

以前から施設に入居している子供がC型肝炎で、現在ウイルス排除に成功して2年経過した。治療前から入浴も食器も別にされていたが、今もその対応が続いている。
施設側は、「再発の可能性があるから」と言うが、その後も陰性が続いており、肝機能も正常値。この対応がいつまで続くのか疑問。

介護施設 (1)
ご相談者: C型肝炎の患者さんの家族
A1回答1

C型慢性肝炎の方で、抗ウイルス治療を受けてウイルス学的に完治(体内からウイルスが完全に排除された状態)した方からの感染は報告がありません。

C型慢性肝炎、B型慢性肝炎の方でウイルスがいる状態であっても日常生活における感染経路は血液なので、施設において食器を別にしたり,入浴を別にしたりするという必要は無く、この行為自体が偏見・差別に該当します。施設サイドで改善されない場合には
肝疾患相談支援センターに電話で相談してみてください。

メモ1:完治した後に再びウイルスが再陽性化する病態としては、再感染と再燃が考えられます。C型肝炎は抗ウイルス治療によって一度完治しても、別のC型肝炎ウイルスに暴露されると再感染をおこします。再感染事例は海外では薬物常用者などでは少なからず報告されていますが、国内のC型肝炎感染例の多くは薬物常用者でないことから再感染事例の報告は比較的稀です。一方、ウイルス学的に完治と判定された例で感染が再発することは完治してから1-2年の期間に極めて稀に報告されていますが、完治後2年以上経過して再燃することは一般的にはないと考えられています。

メモ2:B型肝炎の患者さんでウイルス量が低い場合や、抗ウイルス剤を服用している場合には、日常生活において感染させることはありません。

更に深く知りたい方に
元患者A

この事例は施設においてです。C型肝炎の患者からです。「施設に入居している家族がC型肝炎で,現在SVR(Sustained Virological Response:ウイルス学的著効)。治療前から入浴も食器も別にされていたが,今もその対応が続いている。施設側は『再発の可能性があるから』というが,その後も陰性が続いており,肝機能も正常値,この対応がいつまで続くのか疑問」そういう相談です。
これはいろいろな問題を含んでいて,ウイルスがあるときの入浴,食器が別というのも問題だと思いますが,施設側がC型肝炎のウイルスがなくなったという認識についても大きな問題だと思っています。主治医の先生から一筆書いていただくということをお話ししました。

司会

SVRの状態というのはどう考えたらいいのか。医療従事者A先生からご説明いただけますか。

医療従事者A

うちの病院でも1,000例以上SVRの方がおられますが,私がみた限り,針刺し事故などで再感染をした1例を除くと,SVRから自然とウイルスがでてきた人はいないですね。薬物常用者が多い海外とは異なり日本のC型肝炎患者さんで再感染は,普通はないと考えられます。ただ,文献ではSVRの判定が甘くて再感染したという事例の報告がありますが,数万人のうちの1例になると思います。そのことを取り上げてここで当てはめて論じるのはナンセンスだと思います。日本の医療機関で専門医がSVRと判定した例では再感染を起こさない限りないと思います。日本ではSVR後の再感染が少ないので,普通に治ってしまうと感染性もないと判断すべきだと思います。

医療従事者B

その点はまったく医療従事者A先生と同じですね。感染性はまったくない。先ほど元患者Aさんがおっしゃるようにこの問題の本来の問題はウイルスが排除されていない時点で食器が別だったとか,入浴が別だったということ自体が大きな問題で,血液そのものが出ているような状況であったとしてもあまり問題ないような気がしますが,ウイルスがいる状態であっても,食器を別にしたり,入浴を別にしたりするという必要はまったくありませんし,これ自体が偏見・差別そのものだと思いますのでナンセンスだと私も思います。

司会

こういった話というのはあちこちで聞きますか。

元患者A

これはちょっと特異な例です。

スピーカー紹介
八橋 弘先生
八橋 弘先生

国立病院機構長崎医療センター 院長。肝臓内科が専門。「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班代表。

四柳 宏先生
四柳 宏先生

東京大学医科学研究所 教授。元は消化器内科が専門であったが、現在は感染症という切り口から肝炎を診ている。

米澤 敦子氏 (司会)
米澤 敦子氏 (司会)

東京肝臓友の会 事務局長。東京肝臓友の会では,日々電話相談窓口を設けて患者,家族の方から電話相談を受けており、今回の事例もその相談の一部です。

中島 康之先生
中島 康之先生

全国 B 型肝炎訴訟大阪弁護団弁護士。弁護団弁護士として主に肝炎患者さんの支援などを担当。

梁井 朱美氏
梁井 朱美氏

全国 B 型肝炎訴訟九州原告団。現在慢性肝炎を患いながらも,抗ウイルス薬でウイルスをコントロールしながら活動。

及川 綾子氏
及川 綾子氏

薬害肝炎全国原告団。東京肝臓友の会で電話相談を手伝っている。

浅井 文和氏 (司会)
浅井 文和氏 (司会)

日本医学ジャーナリスト協会会長、元朝日新聞編集委員。ジャーナリストとして肝炎の記事を数多く執筆。

是永 匡紹先生
是永 匡紹先生

国立国際医療研究センター・肝炎情報センター 肝疾患研修室長。消化器・肝臓内科が専門。

磯田 広史先生
磯田 広史先生

佐賀大学医学部附属病院・肝疾患センター 助教。肝臓が専門。普段は「なんでも相談窓口」を担当している相談員も兼務。

このサイトは「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班により運営されています