偏見差別相談事例

患者さんやご家族から寄せられた
実際の相談事例を紹介しています。

介護施設に入居の問い合わせをしたら、B型肝炎のため断られた。核酸アナログを服用し、ウイルスは検出せずの状態で、感染のリスクはないと言われている。入居できるところを探している

介護施設
ご相談者: B型肝炎の患者さん
司会

次の相談事例は介護施設です。これもよくあるご相談なのです。70代のB型肝炎の方で、主治医から感染リスクなしと言われているにもかかわらず、介護施設に入居を問い合わせたら、B型肝炎のために断られ、入居できるところを探していらっしゃるということでございます。こういうご相談がたくさん来ていると思うのですが、実際、元患者Aさん、元患者Bさん、どうでしょう? この類の相談は現在もかなり多いでしょうか?

元患者A

すごく多い訳ではないのですけど継続的にあります。

司会

この方の場合は、本当にウイルスが少なくなって検出せずになっているということなので、感染リスクという意味では、医療従事者B先生、リスクなしということでよろしいでしょうか?

医療従事者B

はい、基本的になしです。高齢者施設でリスクが生じるとすれば、そのかた自身が出血した際に起きることです。噛まれても別に唾液の中にウイルスがいるわけでもありませんし、普段の入浴介助とか食事の際には感染は起こりません。高齢者施設の中には現在も入居条件の中にB型、C型を書くところがあると思います。で、入所の可否を判断するのは、そこの顧問医みたいな方ですけれども、多くの方は高齢であり十分理解されていないのだと思います。ガイドライン作っているので見てくださいとしか今のところお願いしようがないわけですけれども、そういった事例が積み重なるようであれば、厚労省に相談することは可能だと思います。

司会

どうもありがとうございます。ガイドラインがあるということなのですが、実際、それぞれの施設、あるいはその施設のドクターの方が、どれぐらいそのガイドラインを読んで理解してもらえるかというのは、実際どうなのでしょう? そういうガイドラインに関する例えば自治体での研修会とか、あるいはそういう老人介護施設団体の中での勉強会みたいなことは実際行われているのでしょうか? そこはご存知ですか? 医療従事者D先生、お願いします。

医療従事者D

介護施設の施設長をされている先生は、整形外科など内科系ではない先生も結構多いです。こうした先生方が肝炎に関してガイドラインなどを正しく知ってらっしゃるということは、もしかしたら難しいかなと思います。あと直接的な話ではないですが、佐賀ではケアマネージャーの方々と協力して高齢者の肝炎対策を進めていきたいと考えて、昨年度から活動を始めています。ケアマネージャーの方に肝炎が血液や体液で感染することを知っていますか? と聞くと91%がご存じです。肝炎についてはケアマネージャーの資格を取る際に講習で習うらしいのですけども、「肝炎ウイルスは内服薬で治る、安定する」ということについてご存知の方は30%だったんですね。佐賀県だったので、30%も知ってるのかもしれないです。医療職ではない方々が介護の領域ではたくさん働いていらっしゃるので、もしかしたら全国的にはもっと認識率は少ないのかもしれません。ウイルスが検出せずと言われても、その意味が分からないんじゃないかな、と私の肌感覚ですが感じています。

司会

そうですね。そのケアマネージャーの方への情報共有、例えばケアマネージャーの方に肝炎コーディネーターとして研修を受けていただくことはできるのでしょうか?

医療従事者D

はい、可能です。佐賀では昨年度からケアマネージャーの方々に肝炎医療コーディネーターの資格取得を進めています。ケアマネージャーの方は利用者が要支援と認定されれば、利用者やそのご家族と3か月に1回以上面談の機会がありますし、要介護として認定されると毎月1回以上面談の義務がありますので、ケアマネージャーの方々に肝炎に関する正しい知識を知っておいていただけるように、県内の地区ごとに研修会を開いて学んでいただき、参加者に肝炎医療コーディネーター養成研修会への参加を促しています。今月の中旬から今年度の佐賀県での養成研修がありますので、さらに肝炎医療コーディネーターの輪が広がっていけばと期待しています。

司会

ケアマネージャーの方への研修が進めば、かなり現場で変わっていくのではないかと思います。

医療従事者D

私たちの活動はまだ試験的な取り組みですが、また成果が出ましたらご報告したいと思います。

司会

どうもありがとうございます。この介護の問題もなかなか大変です。

会場参加者Bさん

私はB型肝炎で、12年ほど前までケアマネージャーをしていました。 在宅されている方を担当していましたので、かかりつけ医、訪問看護、介護施設等との調整などをしていました。その中でウイルス性肝炎の方が施設に入所する際に施設側から、職員と話し合いの場を持ったところ、受け入れは難しいという回答をもらいました。

かかりつけ医もウイルス性肝炎について詳しくなかった方も多かったと思います。

現在は治療の必要はないということを聞いていたのでその旨を書面等で施設にお伝えしてもらうようお願いし、私から施設に対して感染経路、感染防止などの説明をすることで何とか理解をしていただいたという経験があります。しかし、入所をあきらめて、もう少し在宅で頑張ります、ということもありました。

また、自治体で開催した事業所向けの研修会に参加したときに、介護施設の方から、他の入所者さんへの感染を防ぐためには職員数が足りない、また職員の感染予防のためのワクチンは事業所ではなく職員個人の負担となっていることから現状ではウイルス性肝炎の方を受け入れる環境ではないとの発言がありました。

この頃は正しい知識を学ぶ場もなかったからだと思っていましたが現在も続いているのですね。

やはり多くの方に知ってもらい、多くの方に広めていただくことが大事だと思います。

司会

貴重な経験をお話しいただき、ありがとうございました。そのように介護の世界も変わっていけばと思います。

スピーカー紹介
八橋 弘先生
八橋 弘先生

国立病院機構長崎医療センター名誉院長/長崎県病院企業団企業長。肝臓内科が専門。「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班代表。

四柳 宏先生
四柳 宏先生

東京大学医科学研究所 教授。元は消化器内科が専門であったが、現在は感染症という切り口から肝炎を診ている。

米澤 敦子氏 (司会)
米澤 敦子氏 (司会)

東京肝臓友の会 事務局長。東京肝臓友の会では,日々電話相談窓口を設けて患者,家族の方から電話相談を受けており、今回の事例もその相談の一部です。

中島 康之先生
中島 康之先生

全国 B 型肝炎訴訟大阪弁護団弁護士。弁護団弁護士として主に肝炎患者さんの支援などを担当。

梁井 朱美氏
梁井 朱美氏

全国 B 型肝炎訴訟九州原告団。現在慢性肝炎を患いながらも,抗ウイルス薬でウイルスをコントロールしながら活動。

及川 綾子氏
及川 綾子氏

薬害肝炎全国原告団。東京肝臓友の会で電話相談を手伝っている。

浅井 文和氏 (司会)
浅井 文和氏 (司会)

日本医学ジャーナリスト協会会長、元朝日新聞編集委員。ジャーナリストとして肝炎の記事を数多く執筆。

是永 匡紹先生
是永 匡紹先生

国立国際医療研究センター・肝炎情報センター 肝疾患研修室長。消化器・肝臓内科が専門。

磯田 広史先生
磯田 広史先生

佐賀大学医学部附属病院・肝疾患センター 助教。肝臓が専門。普段は「なんでも相談窓口」を担当している相談員も兼務。

このサイトは「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班により運営されています