偏見差別相談事例

患者さんやご家族から寄せられた
実際の相談事例を紹介しています。

会社の検診でB型肝炎とわかり、核酸アナログ製剤を服用している。 専門医から「感染に気を付けるように」と念を押されて以来、人前に出られなくなった。

その他
ご相談者: B型肝炎の患者さん

このテーマについて、様々な立場の有識者が討論されている内容をご覧いただけます。スピーカーの発言の行間から、このテーマに根差す深い課題を共に感じて頂ければ幸いです。

元患者A

感染に気をつけるようにというように、診察室を出るときに言われてしまった。それまで診察室で感染について何も言われなかったのに、このタイミングで? と強い印象が残ってしまった。こういうこと言ってほしくなかったなとか、そういったことが何かあったら、ぜひ教えていただきたいと思います。肝臓専門医ではなくて、別の科の先生とか、そういう経験ないですか? 先生から言われて傷ついたという相談も、まあまあ あります。

元患者B

肝炎患者はうつされたら困るというより、人にうつしたらどうしようという気持ちが人一倍強いのに感染に気をつけるようにって、これはなんか本当にきつい言葉だなーって行きたくなくなる気持ちはすごく分かります。

元患者C

先生の言葉が足りなかったのではないかと思います。肝炎患者が感染についてとても気を遣っているという事をご理解いただき、わかりやすく柔らかく伝えて欲しかったと思いました。

元患者A

実は感染について、肝炎の患者がきちっと肝臓の専門医から説明を受ける、あるいは、肝臓専門医ではなくても、看護師さんでも医療者から、説明を受けるというチャンスって、なかなかないんじゃないか。私もC型肝炎で、もう何年と病院生活を送りましたけれども、私が一番最初に言われたのは、C型肝炎は夫婦ではなかなか感染しないからみたいなことをちらっと言われた。私は35の時に確定診断を受けたので、まだ子供も欲しいかなと思ってたりして、そうなんだというぐらいで。ネットで調べたらいろんなことがわかるかもしれませんけれど、ネットの情報というのは、どこまでが本当で、どこまでがウソか分からないし、やっぱり専門の専門医の先生、自分の担当主治医の先生からきちんとそういう話を聞きたいという希望はありました。先生方に伺いたいのですけれども、新しい患者はなかなか来られないかもしれないですけど、どういう風に感染のことはお伝えされているかということを伺いたいです。

医療従事者A

ウイルス駆除が難しかった時の昔の話です。私はC型肝炎の患者さんには、このように説明していました。C型肝炎の感染は、輸血とか針刺しとか、確実に血液が体内に入らない限り、日常生活ではまず感染することはないのであまり心配しなくていい。今、夫婦ともにC型肝炎で、二人で私の外来にこられているC型肝炎の患者さんはたくさんおられますが、夫婦間でウイルス遺伝子を調べてみるとウイルスの遺伝子型が違う、遺伝子配列が異なる場合が多いと報告されました。夫婦間で感染したのではなくて、それぞれが別々に、どこかで感染したと考えられている。夫婦間感染の可能性はゼロではないけれど、非常に少ないので、ご夫婦の場合でも感染を心配しなくて良い。しかし昔の話になりますが、30年前、C型とわかったということで離婚された患者もおられました。感染するかもしれないということで、離婚する必要はないと御本人に何回かお話ししたのですが、お話をお聞きすると、感染していることがわかった事実から逃れなくなっているように感じました。新たにC型肝炎とわかった方に対して、医者は病名をご本人に伝えます。しかし、そのことで多くの方の人生を変えてしまったように思います。今でも、なんとかできなかったのか、後悔しています。30年前の話で、その当時の治療による治癒確率は2、3割でした。C型肝炎に関してはそのような話がありました。一方 B型肝炎の家族内感染としては、母子感染、父子感染、夫婦間感染があります。しかし、B型肝炎の場合には、感染を予防することができるワクチンが30年前からありました。ですので、ワクチンを打てば大丈夫とお話ししてきました。私は、肝炎の専門家なので、C型肝炎とB型肝炎の感染確率と感染予防の方法についても、本人やその家族には説明して、過度な心配はしないようにお伝えしてきたつもりです。

医療従事者B

最近でもB型の若い方でウイルス量がすごく多い方が来られることはやっぱりあるのですね。そうするとお仕事は何をしているんだとか日常生活で何しているのかとか、いろんな段階で聞きます。他人に感染させる可能性がどういった機会にあるかをお聞きすることも大切です。例えば最近女性の若いウイルス量の多い方が来られました。保育士をされています。女性の方ですから、月のものもある。血液の出るような怪我をすることもある。そうした具体的な状況をお示しすることが大切だと思います。この方の問題点とは、感染に気をつけるように言っているだけで何に気をつけなきゃいけないのか具体的に言ってないことです。血液が出た時に怪我をした時、あるいは生理があった時とか、そういった時には他人にそれが直接触れることにないように、きちんと自分で処理をするんだよ、とお話することが大切だと思います。またウイルス量が多いと、唾液の中にでる場合もあると思いますので、保育施設ですから、小さなお子さんたちの生の肌に唾液が触れないような工夫はするんだよ、というようなことをできるだけ具体的に指導するようにすることが大切だと思います。ただ、細かいことまでわかってないので、プライベートライフ、付き合っている彼氏はいるの? とか、少し診療時間があるときに、少しずつ話をしながら、具体的にお話するようにしています。

医療従事者D

最初に私も感染に気を付けるようにという言葉は何に気を付けるという意味か分からないと思いました。この2、3年間は、診察が終わった後にお互いコロナに気をつけていこうねという話は毎回のように当たり前にしていたので、この話ももしかしたら肝炎ではなくてコロナに気をつけようという意味で言っていたのかなと思いました。でも、今回の相談事例ではコロナではなくてやっぱり肝炎のことを言っていたのだと思うのですが、自分も外来でそんなことを言ったことがあったかなと思いかえしていました。肝炎の方に感染性について話をすることについてですが、B型肝炎の方は経過が非常に長くて引き継ぎで何年も診てることが多くて、主治医もどんどん変わっていって、自分もその方々を引き継いで診させていただいている。その方々にあえて自分が主治医になった際に、感染症としての話題を出すことはほとんど無いかなと思います。検査結果の説明や、最近元気だったかどうかという話だけして終わっているかなと思います。感染性の話をするのは、初診の方で、今回初めてB型肝炎になりましたという方に話すことが多いと思います。それでも相手の状況によって感染症のことを多く話すのか、今後その方にどんな治療や検査が必要になるのかという情報の、どちらを重点的に話していくかというのは、かなりその患者さんに応じて変えています。若い方であれば、感染症の話をしっかりします。

弁護士

先生方が患者さんに生活上の注意点を説明される時、口頭だけと思うのですが、口頭で説明した時に、患者さんの頭に残るのが「感染」という言葉だけだったのではないかと思います。いろんな注意点を言われても、「感染」だけが妙に頭に残って、こういうことをしたら感染しますという説明が記憶からとんでしまい、「感染」だけが残ったのではないかということも考えられます。例えば、こういう行為が感染する、こういう行為が感染しないというような図表などを示して説明はされたりするのですか。

医療従事者A

私は図表を用いて説明したことはあまりないですね、基本、言葉だけの説明です。

医療従事者B

確かに説明した紙をお渡しするのは悪いことではないのかなという気がしますけども、個人個人の状況が非常に違うのでなかなかきちんとした説明をするのは難しいと思っています。ただ、おっしゃったことは大事なことだと思いますので、誰にでも説明したほうがいいことが何なのかということはまた考えていければと思います。

医療従事者D

治療が始まった方には、その治療の説明用資材の中には肝炎の感染する可能性がある行為などが書いてあるので、それを用いて説明することがあります。でも治療が必要ではない方に感染性を説明する際には、決まった資材をお渡ししていなくて、言葉でしか説明しておりませんでした。はい、次から気をつけたほうがいいと思いました。

元患者A

でも専門の先生方の先ほどの話じゃないですけど、本当にお忙しい診察室の中での説明ですから、なかなかお互いが納得いくような形での説明はすごく難しいんじゃないかなと思います。でも、私は本当に一言、夫婦間感染少ないからねと言われただけだったので、それに比べたら全然素晴らしいかなと思うのですけれども。診察室以外で、例えばコーディネーターさんがその感染について説明するといった機会はあるのですか。

会場Yさん

外来で初めて感染したと診断された方と接したことがなかったので、直接お話することはなかったのですが、感染性について質問という形でお受けをした時に、話をする機会はありました。コーディネーターの皆さんにお渡ししている資料の中に、医療従事者B先生が作成された感染の資料等をお渡ししていて、さっき先生からご回答があったように、こういう時に使えますよとか、もう少し私なりに皆さんにお伝えできたらなとお話聞いて思いました。

元患者A

患者に対しての説明は多分昔から変わっていないのではないかなという感じですね。感染の部分ってなかなかすごく難しい。先ほど先生方もそれぞれの状況で違いますからとおっしゃっていたように、B型肝炎の場合は特にいろいろな、あの数値で感染の状況が変わってくる等ということもありますので、すごく難しいのかなと思います。でも、やっぱり患者にとってはこの相談にもあるようにとても重要なことで、これが残ってしまってこの方はこの後うつ状態になってしまって、今、心療内科にも継続してかかっているということですので、そのようなことにも繋がってしまうということで、やはり気をつけていただきたいと思います。

スピーカー紹介
八橋 弘先生
八橋 弘先生

国立病院機構長崎医療センター 院長。肝臓内科が専門。「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班代表。

四柳 宏先生
四柳 宏先生

東京大学医科学研究所 教授。元は消化器内科が専門であったが、現在は感染症という切り口から肝炎を診ている。

米澤 敦子氏 (司会)
米澤 敦子氏 (司会)

東京肝臓友の会 事務局長。東京肝臓友の会では,日々電話相談窓口を設けて患者,家族の方から電話相談を受けており、今回の事例もその相談の一部です。

中島 康之先生
中島 康之先生

全国 B 型肝炎訴訟大阪弁護団弁護士。弁護団弁護士として主に肝炎患者さんの支援などを担当。

梁井 朱美氏
梁井 朱美氏

全国 B 型肝炎訴訟九州原告団。現在慢性肝炎を患いながらも,抗ウイルス薬でウイルスをコントロールしながら活動。

及川 綾子氏
及川 綾子氏

薬害肝炎全国原告団。東京肝臓友の会で電話相談を手伝っている。

浅井 文和氏 (司会)
浅井 文和氏 (司会)

日本医学ジャーナリスト協会会長、元朝日新聞編集委員。ジャーナリストとして肝炎の記事を数多く執筆。

是永 匡紹先生
是永 匡紹先生

国立国際医療研究センター・肝炎情報センター 肝疾患研修室長。消化器・肝臓内科が専門。

磯田 広史先生
磯田 広史先生

佐賀大学医学部附属病院・肝疾患センター 助教。肝臓が専門。普段は「なんでも相談窓口」を担当している相談員も兼務。

このサイトは「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班により運営されています