偏見差別相談事例

患者さんやご家族から寄せられた
実際の相談事例を紹介しています。

歯科でC型肝炎と伝えると、仮詰めだけして、次の予約をずっと先にさせられた。来てほしくないんだなと思い、大学病院で診てもらうことにした。個室で医師は防護服を着ての診察で、それは仕方ないと思っていたが、SVRを伝えた後も状況はまったく変わらなかった。

医療機関
ご相談者: C型肝炎の患者さん

このテーマについて、様々な立場の有識者が討論されている内容をご覧いただけます。スピーカーの発言の行間から、このテーマに根差す深い課題を共に感じて頂ければ幸いです。

司会

C型肝炎の60代の方が、次の予約をずっと先にされてしまったと。大学病院では防護服の先生もいればそうではない先生もいて、なんか統一されておらず、嫌になり歯科を変えたというご相談でございます。こちらについて、元患者Bさんどうですか?

元患者B

私も同様の経験をしています。結局、SVRでも診断書を出さないと普通の診察室で診てもらえないということで診断書を書いてもらって病院に出したのですけれども、ちょっと納得がいかないことがありました。事務室に掛け合ってカミングアウトした者だけがそういう扱いを受けるのかということと、診断書に変わるようなものがあれば嫌な思いをしないなって思った経験があります。SVR後のあの嫌な思いというのは、結構あります。会場に来ていらっしゃるAさんもいろんな体験をしてらっしゃるので、もしよろしかったらお話しいただけたらと思います。どうぞよろしくお願いします。

会場参加者Aさん

私がハ―ボニーの服用でSVRになったのはちょうど6年前です。その後に甲状腺癌になりました。最初は手術が午後一時と言われたのですけど、「あなたはC型肝炎だったよね。じゃあダメだ。一番最後だよ。」って、こういうふうに言われたのです。「でも先生、私はもうあのウイルスいないですから。」「いなくてもダメ。」その一言で何も受け入れてもらえなかったという経験がございます。もう一つは胃カメラの時もやはり予約が早かったのに、「あっ、Aさんはだめだわ。C型肝炎だったよね。最後にしてね。」もうこの2つのできごとでお医者様って、何もわかってないの? って、そういう感じをすごく受けた経験がございます。ただ、甲状腺は2018年だったのですが、最近は去年も脊柱からの手術をした時も、全然そんなことはなかったので、だんだんお医者様の中でも認識が広がってきたかなという経験がございます。

司会

ご経験をお話しいただきまして、ありがとうございました。SVRを伝えても、相手の歯医者さんが理解してくれないのは大変困ることですが、実際、歯医者に関しては感染対策もやっているところはやっている。だったらこういう感染対策が、過剰な対策なのかというところはどう思われますでしょうか? 医療従事者B先生、どうですか?

医療従事者B

おそらくSVRの意味するものを充分理解できていない医療関係者がいるということが本質的な問題です。ウイルスが血液の中に存在しないのですから、血液から感染が起きるわけがないというのが我々肝臓専門医共通の認識なのですけども、そこが共有されていないと思います。ウイルスが血液で検出されなければ歯科医に告知せずに黙って治療を受けることは問題ないと思います。手術の場合は医療機関受診の際に確認をして、話し合いが必要だと思いますけど、歯科受診関しては、HCV RNA陰性であれば他人に絶対うつさない、迷惑をかけない、と理解していただければいいかなと思います。

司会

元患者Aさんはどうでしょう? こういった相談の中で、こういうSVRの方は、もう患者さんからは言わなくていいというような話もあるのでしょうか?

元患者A

SVRだったら別にC型肝炎ではない。なのでそれも当然言う必要ないのではないでしょうか。ただ、やっぱりずっとC型肝炎です、ということを言い続けてきて、何十年も過ごしていますのでウイルスがいないと言う状況になっても、言わなくちゃいけないんじゃないかと思っている患者はいます。

司会

そこのところが、実際言わない、言わないでよいというのが、例えば次の歯医者さんに行くときにはそういう対応になるのでしょうか?

元患者A

そうですね。ただ、この方はずっと同じところで、治療前、治療後と同じ歯医者さんに診てもらっていた。しかもすごく大きな大学病院なのにこのようなことがあったということですね。実は、この方は東京肝臓友の会の電話相談のスタッフなのですけれども、本当に歯医者さんではもう大変な思いをしましたと言っていました。

司会

やはり同じ病院の中で対応が変わるというのも変な話だと思うのですが、そういうことはよくあることなのでしょうか?

医療従事者B

どの医療機関にも感染対策マニュアルがありますけども、ウイルス陰性となった場合、十分コントロールした場合の扱いの記載はないと思います。この点はこれから議論しなければいけないだろうと思います。

司会

この場合は歯医者さんということでしたが、他に医療機関を受ける時にもC型肝炎をSVRで完全にウイルスがなくなりましたということを、ほかの医療機関でも伝えなければいけない時があるのですが、上手な伝え方を教えてください。

医療従事者C

先ほどAさんからお聞きしましたが、その先生はお年の方でしたか。若い方でしたか。

会場参加者Aさん

50歳ぐらいです。私は歯医者さんはちゃんとSVRになったと伝えたら元のようになりましたので、先ほど申し上げなかったのですけど。

医療従事者C

歯科医に限らず、医師でも肝炎ウイルスを理解しているひと、そうでないひとがいます。拠点病院内でも内科とそれ以外では、肝炎ウイルスの最新治療に認知度に大きな差があり、そういうところが差別・偏見つながっているのではないのかと思います。皆様は「どこでも同じ医療レベルにあるはず」と思っておられるかもしれず、その点では一医療従事者としてお詫びいたします。

今回は、C型肝炎ウイルス検査について説明したいと思います。抗体陽性というと、先ほど医療従事者A先生がお話しされたように「感染した可能性がある人」になります。自治体が行う肝炎ウイルス検診だと抗体の価が高い人は「感染している可能性が高い」とされ、精密検査の対象となります。その一方で、低~中の価の陽性者は「PCR検査」を行い、その陽性者だけが要精密検査となります。

ここ数年の、自治体検診の傾向をみますと、HCV抗体陽性率は、0.7からゆっくり減少しています。その中で「精密検査に行きなさい」とされる陽性者は40%から30%しかいません。「C型肝炎の抗体が陽性」であっても、70%近くの人は病院に行かなくてよい=ウイルスに感染していないと判断されています。HCV抗体陽性であってもウイルスが存在しないひとが増えていることは、今回の事例が今後も増える可能性があります。

先程も説明したとおりC型肝炎抗体=感染していると考える、更に抗体価について十分な知識もない歯科医・医師は存在します、皆様に知って頂きたいのは、先ほど医療従事者A先生に見せていただいた「食事で肝炎ウイルスに感染しますか」という質問に対し、「ない」と回答する医者は9割ですけど、看護師・検査技師さんは7割前後になっています。歯科ばかりでなく、医療機関のなかでは、今回の事象はどこでも起こりうることを忘れないでください。

そこで、患者さんの方からも「ウイルスを排除した」という証明書を見せることができればと思いました。次のスライドでお示ししますが、表にはC型肝炎ウイルスを「私は排除しました」に加えて、「C型肝炎の抗体は終生陽性です」というカードを作成しました。(C型肝炎に感染したことを示す抗体で、ワクチンを打って上昇する中和抗体ではありません)

カードを渡す際にお話しを伺うと、ウイルスが消えたことは100%覚えておられますが、C型肝炎の抗体が持続陽性だと知っているひとは15%しかいません。専門医が渡しているので専門医がうまく伝えていない証拠でもありますが…。カードを渡したひとに1年後に確認すると抗体が終生陽性であることを覚えている割合は60%まで上昇しておりました。患者さんが、ウイルスが排除されても抗体が陽性であることを認識すること、また証明書として医療機関でお見せできれば、今回の事例は少なくならないか? と考えております。

司会

はい、どうもありがとうございました。ほかに弁護士先生、お願いします。

弁護士

今はC型肝炎でウイルス排除をされた方の話ですが、仮にウイルスがあった場合に特別扱いをすることは、医療側の対応として科学的に正しいのでしょうか?

医療従事者A

ウイルスがあったら特別扱いをするというのは誤った対応です。歯科医院も病院も、ウイルスの有無にかかわらず、標準予防策をおこなうというのが正しい考え方です。C型肝炎にかかっている方もそうでない方も同じように感染対策の基本をおこなうべきです。

スピーカー紹介
八橋 弘先生
八橋 弘先生

国立病院機構長崎医療センター 院長。肝臓内科が専門。「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班代表。

四柳 宏先生
四柳 宏先生

東京大学医科学研究所 教授。元は消化器内科が専門であったが、現在は感染症という切り口から肝炎を診ている。

米澤 敦子氏 (司会)
米澤 敦子氏 (司会)

東京肝臓友の会 事務局長。東京肝臓友の会では,日々電話相談窓口を設けて患者,家族の方から電話相談を受けており、今回の事例もその相談の一部です。

中島 康之先生
中島 康之先生

全国 B 型肝炎訴訟大阪弁護団弁護士。弁護団弁護士として主に肝炎患者さんの支援などを担当。

梁井 朱美氏
梁井 朱美氏

全国 B 型肝炎訴訟九州原告団。現在慢性肝炎を患いながらも,抗ウイルス薬でウイルスをコントロールしながら活動。

及川 綾子氏
及川 綾子氏

薬害肝炎全国原告団。東京肝臓友の会で電話相談を手伝っている。

浅井 文和氏 (司会)
浅井 文和氏 (司会)

日本医学ジャーナリスト協会会長、元朝日新聞編集委員。ジャーナリストとして肝炎の記事を数多く執筆。

是永 匡紹先生
是永 匡紹先生

国立国際医療研究センター・肝炎情報センター 肝疾患研修室長。消化器・肝臓内科が専門。

磯田 広史先生
磯田 広史先生

佐賀大学医学部附属病院・肝疾患センター 助教。肝臓が専門。普段は「なんでも相談窓口」を担当している相談員も兼務。

このサイトは「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班により運営されています