偏見差別相談事例

患者さんやご家族から寄せられた
実際の相談事例を紹介しています。

治療を受けHCVウイルスを排除したあとに、白内障の術前検査でHCV抗体が陽性と出てしまった。再検査の結果、抗体価60なのでC型肝炎に感染していると言われた。看護師に嫌な目つきで見られるし、とても不愉快な思いをした。 再発?もう大ショック。どうしてこんなことになったのか。

ウイルス検査
ご相談者: C型肝炎の患者さん

このテーマについて、様々な立場の有識者が討論されている内容をご覧いただけます。スピーカーの発言の行間から、このテーマに根差す深い課題を共に感じて頂ければ幸いです。

元患者A

このような相談は定期的にあります。HCV抗体とはどういうことかということを簡単に説明いたしまして、納得していただきました。

元患者B

特に、肝臓の専門医以外の先生から大変だよということを言われたというご相談が多いです。患者自身もわかってない、知識がないというのはもちろんあるんですが、SVRになった時に、先生から継続的に検査する場合にHCV抗体は陽性になるよ、と一言ってほしいです。

司会

医療従事者B先生、肝臓専門医ならわかっているんですが、他の診療科のお医者さんの場合はなかなか理解されていないという現実なんでしょうか。

医療従事者B

HBsの場合はHBs抗原、HCVはHCV抗体で診断されています。抗原と抗体ってどんなものかということを実は正確に理解されていない方っていうのはそれなりにどの分野でも多いかなと思っています。

医療従事者C

「抗原検査陽性」は「現在、感染していますよ!」ということを示し、この数年話題の新型コロナウイルス、またインフルエンザウイルス抗原検査も同様に考えてくださって構いません。その一方で「抗体陽性」という意味は、一般的にも感染したことがある=ウイルスが体に入ったことがあることを示し「感染抗体」と呼ばれています。

また、同じ「抗体」と呼ばれる検査でも「感染抗体」の意味だけでなく、「中和抗体」を示す検査もあります。新型コロナワクチン打ったら抗体増えます・・・というお話がよくある「抗原を中和させるような抗体」がありますし、新型コロナにも「今まで感染したことがあるか」「ワクチンを接種で感染を予防できる抗体」の2種類が存在します。

テレビのワイドショーなどで「抗体が増えてよかったね」「抗体が減っているから感染するかも」という話は中和抗体の話をしています。

先程説明がありました「HCV抗体」は「感染抗体」であって「中和抗体」ではありません。感染したことは事実ですが、「現在、C型肝炎ウイルスしている(キャリア)かどうか」はこの検査だけでは判断できず、「PCR検査」を行うことになります。ですので、C型肝炎ウイルスを抗ウイルス薬にて排除しても、過去に感染したことは変わりませんので HCV抗体は陽性であることを覚えて頂きたいです。

つい最近、自分の担当患者さんを「がんセンター」に紹介したところ、入院時の検査で「あなたはC型肝炎ですね」と言われて「再発したのでは」と思ってしまった。更にウイルス排除をしたことを説明したのに信じ貰えなかったと訴えられました。 実際どのような説明がなされたかは不明ですが、恥ずかしながら「抗体検査」の意味を十分に理解されていない医師がおられるのは事実です。

自治体検診でHCV抗体陽性者中「感染している可能性が高い」として精密検査を勧められるのは2020年で約30%、7割の陽性者がウイルス排除者と考えられ、HCV抗体検査の意味を周知することは急務となってきました。そこでHCV抗体が持続陽性であることを患者さんにも知って欲しい、ウイルスが排除済であることの証明にして欲しいと思い「ウイルス排除カード」を作成しました。

一専門医療機関の患者さんのデータになりますが、C型肝炎ウイルス排除後もHCV抗体が持続陽性だと知っておられるかたは16%のみでしたので、専門医もあまりHCV抗体について説明していないことがわかります。1年後に再度、お伺いすると約70%が抗体陽性であること認識されておられましたし、カードを殆どのかたが常時携帯されており、20%が他の医療機関で利用されていました。

司会

患者さんにお渡しするカードは医療従事者C先生のところではやっておられるんですが他の肝臓専門医の先生方もやっておられるんでしょうか。

医療従事者C

今はパイロット的に約10施設の拠点病院という肝疾患専門医療機関なかでも大きな病院でお配りしています。もちろん元患者Aさんにもお渡ししていますし、利用されたと思う患者さんにお渡し頂き、担当医師に記入し、広まっていけばいいんじゃないかなと思っています。

医療従事者A

C型肝炎の診断の順番は、最初にC型肝炎の抗体を測ります。抗体が陽性の場合には、その次にウイルスの遺伝子があるかどうか測定します。つまりC型肝炎の診断のステップは2段階です。また多くの病院では手術をする前に、必ずC型肝炎の抗体を調べます。この数年間のC型肝炎の治療法の進歩により、術前検査でC型肝炎抗体は陽性だけどウイルスの遺伝子はいない方が圧倒的に多くなっています。では、病院ではどうしているかというと、実はC型肝炎の抗体を測定するだけで終わっている病院が多いのが実情です。色んな考え方があるんですが、C型肝炎の抗体が陽性でも、ほとんどの方が治っているだろうという考え方、また標準予防策が出来ているので、C型肝炎でもB型肝炎でも手術は普通通りできるという考え方などです。ただ術前検査としてC型肝炎の抗体の有無を確認するというルールがあるので術前には必ず測定されます。大きな病院では、感染性のあるC型肝炎患者なのか、既に治癒した状態のC型肝炎の既往感染者なのか、どのように診断するのか相談できる肝臓専門医先生がいるのでいいんですが、小さな病院ではC型肝炎の抗体検査が行われても、その結果を相談する専門医がいないので、C型肝炎の抗体が陽性の場合には、ウイルスがいるかもしれないとクリニックの先生方は説明されるかもしれません。

ウイルスがいない、いるという点を明確にするためには医療従事者C先生が提案されているカードを普及すると良いなあと私は思います。また、私の外来では、C型肝炎は治りました。この人は感染しません。という診断書、連絡票を作成して、開業医の先生に郵送などでご連絡しているのですが、その診断書のコピーを患者さんにも渡しています。今から色んな病院行く時には、この診断書のコピーを病院に提出すれば心配いらないですよと患者さんに話しています。

スピーカー紹介
八橋 弘先生
八橋 弘先生

国立病院機構長崎医療センター名誉院長/長崎県病院企業団企業長。肝臓内科が専門。「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班代表。

四柳 宏先生
四柳 宏先生

東京大学医科学研究所 教授。元は消化器内科が専門であったが、現在は感染症という切り口から肝炎を診ている。

米澤 敦子氏 (司会)
米澤 敦子氏 (司会)

東京肝臓友の会 事務局長。東京肝臓友の会では,日々電話相談窓口を設けて患者,家族の方から電話相談を受けており、今回の事例もその相談の一部です。

中島 康之先生
中島 康之先生

全国 B 型肝炎訴訟大阪弁護団弁護士。弁護団弁護士として主に肝炎患者さんの支援などを担当。

梁井 朱美氏
梁井 朱美氏

全国 B 型肝炎訴訟九州原告団。現在慢性肝炎を患いながらも,抗ウイルス薬でウイルスをコントロールしながら活動。

及川 綾子氏
及川 綾子氏

薬害肝炎全国原告団。東京肝臓友の会で電話相談を手伝っている。

浅井 文和氏 (司会)
浅井 文和氏 (司会)

日本医学ジャーナリスト協会会長、元朝日新聞編集委員。ジャーナリストとして肝炎の記事を数多く執筆。

是永 匡紹先生
是永 匡紹先生

国立国際医療研究センター・肝炎情報センター 肝疾患研修室長。消化器・肝臓内科が専門。

磯田 広史先生
磯田 広史先生

佐賀大学医学部附属病院・肝疾患センター 助教。肝臓が専門。普段は「なんでも相談窓口」を担当している相談員も兼務。

このサイトは「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班により運営されています