偏見差別相談事例

患者さんやご家族から寄せられた
実際の相談事例を紹介しています。

3年前、ネイルサロンで施術(ネイル)をしていただいている人にB型肝炎であることを話しました。その後も普通に施術(ネイル)を行ってもらっていました。 ある日突然、施術を行ってもらっている人から「出入り禁止」とのメールが届きました。 その理由を聞くと「ネイル協会から感染対策のため、今後の施術を断ってください。」との助言があったそうです。 3年前にB型肝炎であることを話したことが原因かと思います。とてもショックでした。主治医にも、ネイルサロンでの出入り禁止の件を相談したら、それは差別・偏見だねと言われました。

その他
ご相談者: B型肝炎の患者さん
相談員1

とても悲しい事例だと思いました。NPO法人日本ネイリスト協会のHPにある 「ネイルサロンにおける衛生管理に関する自主基準」を確認してみました。 https://www.nail.or.jp/media/pdf/eisei/eiseikanri_jishukijun2017.pdf その中の「1. 衛生管理業務に関する事項」の中に、「お客様に感染性疾患もしくはその疑いのある場合、 または施術部位に皮膚疾患もしくはその疑いのある場合等は、皮膚科専門医の診断をすすめ、施術をお断りすること」との記載があり、 これに該当すると考えられたのではないかと思われます。

相談員2

B型肝炎キャリアを理由としてネイルサロンの利用を断られた事例と理解しました。 この事例の背景には、コロナの流行とともに、一般市民の方々も、業界も、必要以上に感染症に対する警戒心を高めている背景があるように思います。

実は、公衆浴場の利用についても下記のような法律があります。

公衆浴場法(昭和23年7月法律第139号)

伝染性の疾病にかかっている者に対する入浴拒否

伝染性の疾病にかかっている者と認められる者に対しては入浴を拒否しなくてはならない。

昭和23年と古い時代に制定された法律が今も有効となっています。

(公衆浴場法概要 (mhlw.go.jp)から引用 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/seikatsu-eisei/seikatsu-eisei04/04.html

これが拡大解釈されて、過去にB型肝炎キャリアがプールの利用を断られた事例もあったと理解しています。 これらの問題の原因は、法律に書かれてある伝染性の疾病や感染症疾患の定義が、曖昧な点ではないかと考えています。 感染症法におけるB型肝炎とC型肝炎は、五類の中の「ウイルス肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)」に該当します。 しかし、これはB型急性肝炎とC型急性肝炎を意味していて、キャリアに対するものではないことは厚労省のホームページの中に明記されています。

2.ウイルス性肝炎(E型肝炎及びA型肝炎を除く)

(1)定義、ウイルス感染を原因とする急性肝炎(B型肝炎、C型肝炎、その他のウイルス性肝炎)である。 慢性肝疾患、無症候性キャリア及びこれらの急性増悪例は含まない。

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-02.html


注意すべき点は2つあって、ひとつは感染性の高い感染症と日常生活では感染しない感染性の低い感染症を区別せずに、 単に感染症や伝染病という3文字の言葉で括ることをやめること、そして、もうひとつは、 感染症法においてもキャリアは感染症法の届け出の対象外であることが明記されていること、が広く知られるべきと考えます。

相談者から追加の質問とコメントが届きました。

相談者(B型肝炎キャリア)

このような相談が寄せられたことは今までなかったのですか?仮に、衛生管理の観点から治療を完治した人でないと受けられないと言われても、 私のように治療の必要のない人はどうしたらよいのでしょうか。最近、人権問題が社会話題化されて、会社でもその研修がおこなわれますが、 社会の改革が追い付いていなくて、自分のように生きづらいと感じている人が少なくないと思います。

相談員2

問題の発端は、「ネイルサロンにおける衛生管理に関する自主基準」の中の「お客様に感染性疾患もしくはその疑いのある場合、または施術部位に皮膚疾患もしくはその疑いのある場合等は、皮膚科専門医の診断をすすめ、施術をお断りすること」の記載の「感染性疾患」の解釈にあると思います。一般的には、急性期の感染症、伝染性のある皮膚疾患、と解釈すべきところを、そのネイル店の店員が拡大解釈しているのが原因と考えます。一方、ネイル協会も感染性疾患について尋ねられても答えることができないのでないかと考えます。

相談員3

理髪店や美容サロンでも、髭剃りやカットなどの刃物を扱うことから、そちらの方がネイルよりも感染のリスクが高いと思います。しかし、今までキャリアを理由に理髪店や美容サロンを断られたという話を聞いたことはないですね。要は、全ての人は感染性のリスクを持っていることを前提に考えるという標準予防策の考えが、理髪店や美容サロンでは十分浸透しているけれども、ネイルサロンでは客とネイリストの間に施行中の会話が多いので、つい個人情報を伝えてしまうという環境があるのではと思いました。

相談員2

今後の対応についてですが、そのネイル店やネイル協会に異議を申し立てても解決にはつながらない可能性が高いと思います。今回は、まずネイルの施術拒否事例があったことを、この研究班の中で相談事例として紹介することで、多くの方に考えていただくようにしたいと思います。この相談事例の公開については、相談者(B型肝炎キャリア)から許可をいただきました。相談者(B型肝炎キャリア)からも多くの方にこの問題について考えていただきたいというコメントが寄せらています。

このサイトは「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班により運営されています