偏見差別相談事例

患者さんやご家族から寄せられた
実際の相談事例を紹介しています。

ウイルス排除後も歯科で治療を断られる。定期健診とか歯石除去も嫌がられる。

医療機関(歯科)
ご相談者: C型肝炎の患者さん
A1回答1

C型慢性肝炎の方は、抗ウイルス治療を受けてウイルス学的に完治(体内からウイルスが完全に排除された状態)された方と、治療を受けておられない方に大別されます。ウイルス学的に完治された方では感染性はないことからC型慢性肝炎であったことを歯科医院に伝える必要はありません。一方、まだ抗ウイルス治療を受けておられない方は、標準予防策(すべての人は伝搬する病原体を保有していると考えて感染防除をおこなうこと)を実施している歯科医院で治療を受けられることをお勧めします。標準予防策を実施している歯科医院では、C型慢性肝炎であってもそうでなくとも、患者さんへの対応や処置に差がないからです。なお医療機関や歯科医療機関の受診の際、ご自身の過去の病気や現在服用している薬剤について、医師や歯科医師に伝えることは、診断と治療をおこなう上で大切なことです。

メモ:C型肝硬変の患者さんでウイルス学的に完治されても血小板数が少ない方では、抜歯などの観血的処理の時に止血シーネなどの準備ないし血小板数を増やす治療法が必要となることがあります。その場合には、かかりつけ医から歯科医へ紹介状を作成してもらいましょう。

A2回答2(患者よりコメント)

「嫌な思いをするなら歯科で肝炎であることを伝える必要はないと思います。
ただ、私たち肝炎患者は他の方に感染させたくありませんし、自分も他の感染症にはかかりたくありません。そのため、標準予防策をきちんと実施している歯科にかかるべきだと考えます。しかし現時点では、標準予防策を徹底していない歯科医院も少なからずみられます。その場合、肝炎であることを伝えると順番を最後にされたり、診療を断られることもあります。歯科にかかる際は、事前に電話で肝炎でも診てもらえるかどうか確認することをお勧めします。」

更に深く知りたい方に

このテーマについて、様々な立場の有識者が討論されている内容をご覧いただけます。スピーカーの発言の行間から、このテーマに根差す深い課題を共に感じて頂ければ幸いです。

司会

事例①は歯科医療の問題です。C型肝炎の方から「ウイルスがあるときから歯科通院で嫌な思いをしています。3軒に治療を断られた経験があります。ウイルスが排除されても丁寧に診てもらえないです。定期検診とか歯石の治療も嫌がられます」というご相談です。

元患者A

この電話相談は,B型でもC型でも皆さん経験のある内容です。私は「患者の方から特に伝える必要はない」と回答しています。

司会

実際に患者さんとしてどういうことを経験されたか,元患者のBさんお願いします。

元患者B

「自分自身が肝炎患者であることをいわないと後ろめたい」という患者がいます。直接歯科医院に行ったときに自分が肝炎患者であることをいったために嫌な思いをすることがあるというご相談が多くありまして,そういう方には行く前にお電話をして自分が肝炎患者であるけれども診ていただけるかどうかという話をしてみたら,ハードルが低くなって嫌な思いをせずに済むのではないかというようなお話をさせていただいています。

司会

元患者のCさんは何かご経験ございますか。

元患者C

私自身は差別されたとかいう経験はありません。母子感染させた子どもたちの歯科治療をしてくださる歯科医院に巡り会え,ほかの患者と区別なく治療を受けてきました。
肝炎に感染していると知らなかった頃は普通に受診していました。「肝炎患者だ」と申告した患者だけ診療拒否したり順番を最後に回したりするのは,申告せずに治療を受ける方もいらっしゃるので感染予防としては不完全なものだと思います。肝炎患者であると歯科治療の際申告することをためらわれる患者が多いです。「断られるのではないか」「ほかの人に知れるのではないか」など,ものすごく不安を抱え治療を受けられています。ある歯科医の「こんなに問診票で,患者さんが悩み苦しんでいるというのを初めて知りました」という話を聞いて,医療者側と感染症を持つ患者との距離があまりにもありすぎると思いました。

司会

歯科の診療の現場では歯科医はほかの患者さんに感染をさせてはいけないという思いでいろいろな対策をとっていますが,実際何か特別な扱いを受けたことがありますか。

元患者B

私もウイルスがあるときに診察室に入ったら,先生と衛生士さんが防護服とラップでした。ウイルスがなくなったとき,やっぱり同じ状態だったのです。治ったからということを患者からいってもなかなか理解していただけなくて,「また復活するのではないですか」ということをいわれて,そのときにとても嫌な思いをしました。結局どうしたかというと私は治ったという先生の診断書を持っていって納得していただいたということがありました。

司会

ラップというのはどういう?

元患者B

椅子とか,器具類をラップで巻かれていたのと,衛生士さんや先生が宇宙服みたいな服装で特別な個室でした。その当時は衛生面で不十分だったからなのかと理解しながら診察を受けていました。治っても,治らなくてもさまざまな感染症の人がいるわけで,ちょっとそれはどうなのかなと疑問に思いました。

元患者A

今お話にでましたが,歯科ではほかの人と違った対応をされるということがあります。それが例えばラップです。肝炎患者が診察室に入った途端に椅子や周辺機器などにバーッとラップを巻き始めるのですね。それってあまりいい気分ではないですよね。説明がまったくない状態でそういうことをされるので「なんで?」とまずびっくりしてしまいます。ひどい場合は診療拒否されます。一切説明がないままに,「肝炎の患者はうちではお断りしています」という対応をとられることもあります。

医療従事者B

実際には受診を予約されるところと,フリーに受診するところと両方あると思いますが,診療拒否は電話予約の段階でも,あるいは歯科医院に行って,「診療をお願いします。実は私はウイルス肝炎に感染しています」といってその場で断られる。両方あるということでしょうね。

医療従事者A

昔は結構多かったのでしょうね。

元患者A

今もありますね。

医療従事者A

今でもあるのですか。過去形ではないのですか。

元患者A

つい最近も泣きながら電話をかけてきたB型肝炎の方がいらっしゃいました。

元患者C

2019年9月から原告団でアンケートを取り始めたのですが,8件の診療拒否というのがあがっていました。

元患者A

診療拒否はいわゆる標準予防策がなされていないと私どもも判断できるので,きちんと説明していただければ患者も納得すると思いますが,説明が一切なく,肝炎患者お断りというような感じで断られてしまうので,患者としてはびっくりするのと,ショックを受けてしまうのだと思います。

医療従事者A

あとは診察の順番が最後にされるとか,そういうこともありますか。

元患者A

あります。それはわりと一般的ですね。

元患者B

時間を指定されて最後の時間にされることはありますね。

元患者A

自分の好きなときに診てもらえない。

医療従事者A

今までは歯科の話でしたが,例えば病院においても昔,内視鏡検査でB型肝炎やC型肝炎の患者さんの検査の順番は最後にしていたという時期がありました。ただ,20年以上前ぐらいから内視鏡は完全洗浄していますので,ウイルス肝炎の患者さんも,そうでない患者さんも,まったく検査も前後の処置も同じです。今では医科系の病院では標準予防策は徹底されていると思います。しかしながら歯科の方は標準予防策をとりつつもまだ浸透していないのか,徹底していないのかなと思ったりします。

元患者C

先ほどラップのお話がありましたが,平成26年に出ました一般歯科診療時の院内感染対策に係る指針の中に,患者ごとのラッピングが感染対策に有効と書かれています。このようにラッピングは患者ごとであって,肝炎患者だと申告した人だけにラッピングではないのです。それから,肝炎患者だと人に知られたくないと思ってずっと暮らしてきた人たちもいらっしゃるのですね。そういう方たちが歯の治療を受けるために申告しなくてはいけないというその辛さや,ほかの人に知れるのではないかという不安というのを歯科医にわかっていただきたいです。標準予防策が徹底され,区別なく歯科の治療が受けられるようになるとよいと思います。

スピーカー紹介
八橋 弘先生
八橋 弘先生

国立病院機構長崎医療センター名誉院長/長崎県病院企業団企業長。肝臓内科が専門。「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班代表。

四柳 宏先生
四柳 宏先生

東京大学医科学研究所 教授。元は消化器内科が専門であったが、現在は感染症という切り口から肝炎を診ている。

米澤 敦子氏 (司会)
米澤 敦子氏 (司会)

東京肝臓友の会 事務局長。東京肝臓友の会では,日々電話相談窓口を設けて患者,家族の方から電話相談を受けており、今回の事例もその相談の一部です。

中島 康之先生
中島 康之先生

全国 B 型肝炎訴訟大阪弁護団弁護士。弁護団弁護士として主に肝炎患者さんの支援などを担当。

梁井 朱美氏
梁井 朱美氏

全国 B 型肝炎訴訟九州原告団。現在慢性肝炎を患いながらも,抗ウイルス薬でウイルスをコントロールしながら活動。

及川 綾子氏
及川 綾子氏

薬害肝炎全国原告団。東京肝臓友の会で電話相談を手伝っている。

浅井 文和氏 (司会)
浅井 文和氏 (司会)

日本医学ジャーナリスト協会会長、元朝日新聞編集委員。ジャーナリストとして肝炎の記事を数多く執筆。

是永 匡紹先生
是永 匡紹先生

国立国際医療研究センター・肝炎情報センター 肝疾患研修室長。消化器・肝臓内科が専門。

磯田 広史先生
磯田 広史先生

佐賀大学医学部附属病院・肝疾患センター 助教。肝臓が専門。普段は「なんでも相談窓口」を担当している相談員も兼務。

このサイトは「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班により運営されています