先生から、検査の結果「B型肝炎にかかっていた」と言われた。『ウイルスはもういないし、治ってるから大丈夫』と言われたが、頭が真っ白になった。どうして私がB型肝炎? いつ、どこで感染したのか、全然わからない。こんなこと、家族にも友人にも誰にも聞けないし相談できない。今、がんの治療中なのに、まさか自分がB型肝炎だったなんて、がんのことよりもショックが大きい。もうどうでもいい、死んでしまいたいくらい。
このテーマについて、様々な立場の有識者が討論されている内容をご覧いただけます。スピーカーの発言の行間から、このテーマに根差す深い課題を共に感じて頂ければ幸いです。
この事例に関して、抗がん剤治療を始める前の検査でB型肝炎に感染しているということが分かった事例です。医療従事者A先生にお聞きしたいんですけど、抗がん剤治療とかの前にB型肝炎に関する検査というのはどういうような検査がされているでしょうか。
B型肝炎の既感染者に抗がん剤治療をする際、最も問題となるのがB型肝炎ウイルスの再活性化です。再活性化のメカニズムは、一度治ったように見えても、抗がん剤治療などにより免疫不全の状態になると、眠っていたB型肝炎ウイルスが再び増殖し始めます。その発生頻度は、強い抗がん剤や免疫抑制剤を使用した場合、数パーセントから十数パーセントといわれています。この「B型肝炎ウイルス再活性化」という病態はこの20年間に注目された新しい知見です。このため、30年以上前には、この病態がわかっていなかったことから、B型肝炎の既感染者を診断する為のHBc抗体の肝炎検査はおこなわれていませんでした。
今の事例の場合だと、HBc抗体を測るということでしょうか?
そうですね、B型肝炎にかったかどうかを調べるのはHBc抗体ですので、それが陽性だと一度B型肝炎にかかっているということになります。
いわゆる既感染者というようなことになるんですか。
HBc抗体陽性の意味は、その多くは既感染者ということを意味します。もちろんHBs抗原陽性、HBc抗体陽性の方もおられますが、多くはHBs抗原陰性、HBc抗体陽性というのは既感染者です。すでに一度かかったけど、治った状態を示します。
そのような状態になっている方は、どれぐらいの割合おられるかわかるでしょうか?
HBc抗体陽性(過去にB型肝炎に感染した既往)の頻度は、日本では年齢層によって大きく異なります。一般人口(岩手県での調査)では約17%が陽性ですが、高齢者(70歳以上)では30%から40%程度と高率です。この結果から、日本の高齢者の2~3人に1人はB型肝炎に感染した経験がある計算になりますが、この事実を多くの人は、ご存知ないと思います。
ありがとうございます。そういうような現状というか、状態を前提として、この方、B型肝炎というふうに言われて、かなりショックを受けたと言う事例ですが、感染判明前にB型肝炎という病気について皆さんどういうようなイメージを持っていたのか?もしよろしければお聞かせください。自分が肝炎だということが分かる前に、肝炎に対するこんなイメージを持っていたとかっていうのがあれば、会場からぜひお願いしたいんですけど。どうぞ。
かなり前なんですけれども、B型肝炎は怖い病気と聞いていました。その時点では知識も無かったので、かかると必ず死ぬ病気だと考えていました。
ありがとうございます。自分が肝炎だと分かる前に、こういうイメージを持ってたとかっていう方おられましたら? ちょっと難しいですかね。この方、劇の中で肝炎だってわかって死んでしまいたいっていうように言われていますが、この発言からこの方がどういうようなイメージを持っていたのかを推測してもらえますか。
この方は相談の際に泣きだしてしまっているんです。おそらくこの方はB型肝炎に対して、あるいはB型肝炎の方に対して、偏見や差別の思いや気持ちを持っていたんだろうなと思いました。そんな汚らしい病気にかかった、とご自身で言われた。そんな汚い病気になんで私がならなきゃいけない。なぜかかったのか、いうことをずっとしきりにおっしゃってたので、実はこの方は悪性リンパ腫で治療中なのですが、そんな事どうでもいい。とにかくB型肝炎が、ということを訴えてました。
ありがとうございます。セリフの中でですね、家族とかには言えないとかっていうような話もありましたが、皆さんがウイルス性肝炎、C型肝炎、B型肝炎だって言うふうに分かった時に家族に伝えた、家族と相談した方ってどれくらいおられます? 逆に家族に言えなかった方ってどれくらいですか? ほとんどの方、家族にご相談されているんですね、元患者Cさんは家族に相談されましたか?
それこそ出産前でしたので家族みんなに伝えました。
はい、伝えました。重篤云々ではなくて感染症ということが分かった時に、主人に真っ先に言って、家族中、すぐ検査に行ったという感じです。
私も家族にはすぐに伝えて、元患者Bさんと同じように、毎月検査してもらって。C型肝炎感染の可能性は非常に低いということを言われたんですけど。ちょっと怖かったので。
そうすると、この事例の方の気持ちがなかなか皆さん実体験として理解しにくいかもしれませんが、感染することを家族に伝えにくいというような、自分の病気があまり良い病気ではないマイナスなイメージがあるからこそ、伝えられないのかなと理解するんですけれども、皆さんの実体験ではないけれども、そういうような肝炎に関するマイナスイメージはどういう所からきてるというふうに想像できますか?
私はB型肝炎だと先生から言われて、いったいどういう病気なんだろうとネットとかで調べました。強烈だったのは、B型肝炎は性病ですと大きく赤文字で出てきたんです。びっくりしました。病気のことが知りたくて調べているのに、なんなんだこのサイトはと思いました。今はそういう場面はほとんどないんですけれども、当時はそういうのが平気で流れてましたね。
元患者Aさんとか元患者Bさんとかありますか?
子供には感染する病気だと言えなかったです。主人にはきちんと話しましたけども、子供には健康診断のために検査しようっていうような言い方で検査しました。変な風に思われたら怖いと考えてしまいました。
「変」というのは、やはり性感染症の側面もあるということですかね?
はい、そうです。やっぱり一番それが心配だったので。
医療者側にちょっとお聞きしますが、肝炎に関して、性感染症で移ったかもしれないというような説明をされたりすることがあるんでしょうか?
先ほど私はC型肝炎の患者さんの場合、体液の中には基本的にはウイルスでないという話をしました。なので、C型肝炎は基本的には性感染として移ることはないです。ただ無いということを書いてあるものがないのでそれを家で話しても信じてもらえるかどうか分からないという問題がC型肝炎の場合はあると思います。B型肝炎の場合はもっと深刻で、基本的にはB型肝炎ウイルスの量が多い場合、セックスで移る可能性があります。先ほど申し上げたように、ウイルスの量が、例えば1㏄あたり10の6乗を超えるような人が性交渉したら感染する可能性があるわけです。他方血液の中には感染性のあるウイルスがいますから、集団予防接種など皮膚に針が刺さる行為があった場合感染する可能性も充分あります。二つで受ける印象は全く違いますし、B型肝炎の感染経路を正確に知ることは難しいです。最初に元患者Bさんに言われたのも私は治っていてウィルスは血中にはいないけれども、なった後の傷跡であるHBコア抗体が出ている。ではどこで傷ついたのって話です。もしかしたら家族であっても性交渉だったと疑われるんじゃないかっていうことです。ですから家族に対して言えないっていうのは理解できる話なんです。抗がん剤を使う前には検査をします。検査をしてB型肝炎の既往(HBコア抗体)が見つかることがあります。何かの機会にB型肝炎に一回感染されたことがあることがわかるのです。”今は血中にはウイルスはみえませんが肝臓の中にはウイルスがまだ残っている可能性がありますから、それをきちんと知るために検査をさせてください”っていうような説明をしています。
ありがとうございます。感染原因に関して、何か先生の方で患者さんに説明するということはありますか?
B型肝炎に過去に感染した経験のある人は自覚がない人が多く、高齢者では一般人口の約3人に1人(既往感染率)と決して稀な感染症ではありません。ただし、持続感染者(キャリア)の頻度は、一過性感染者全体の約3%と低くなります。私は、B型肝炎感染自体は珍しくないことを患者さんに最初にお伝えしています。
医療従事者C先生はどうでしょうか?
ありがとうございます。まず一つは僕たち消化器・肝臓内科の医者はB型肝炎、C型肝炎に慣れすぎているということがあります。簡単に患者さんに肝炎ですよって話をしてしまっているので、それを聞いた患者さんがどう思っているかということを、よく考えて話さなきゃいけないなと、いつもこの問題では思います。肝炎の患者さんにお会いした時は、比較的最近になって新規に感染された方と、すでに昔感染していた方がいて、感染性に関する状況が違うという点に注意して話をしています。今感染したという方に対しては、血液、体液が体に入ってくる行為やリスクはないかは、少し詳しく聞かないと近くに感染された、感染させたかわかりませんけれども、そういった方もいらっしゃる可能性があるので、非常にセンシティブな話になりますけれども、お相手がいるかどうか、風俗を利用したことがあったかどうかということも含めて、詳しく聞きます。一方で、以前かかったことがある方は、大部分が予防接種や母子感染だったりします。これは本人の責任ではないことです。自分が何か感染リスクとなるような行為をしているわけではないけれども、かかってしまった方が大勢おられるということに気をつけながらお話をするようにしています。昔かかった方と最近かかった方を、性交渉や入れ墨、覚醒剤、ピアス、そういうことでかかったと同じように見てしまっていることが、ちょっと問題なのかなと感じています。
この方の場合、ショックで死んでしまいたいという言葉なのです。本当に深刻な受け止めをされていると思います。ヘルスコミュニケーションの考え方で言うと、B型肝炎に対するスティグマというか、強い負の意識が自分の中に溜まってしまって、それで深刻な状態になっていると思います。私は新聞記者をやってきたので、肝炎の記事を書く時に、ひとりひとりの患者さんのスティグマというか、社会的な偏見に結びつかないように気をつけて記事を書いてきたつもりです。けれども、結構センセーショナルな報道のしかたも過去にありましたので、それが深く人の心の中に残っていることは気をつけないといけないと思いました。
もう一つ深刻なのが、家族に言えないっていうところ、特にお子さんに言えないということで、母子感染させているかもしれないけれども、それがわかっていない方も結構おられるというふうに私は聞いています。家族歴、その家族が感染しているかどうかに関して、医療者側から検査を一回した方がいいですよとか、連れてきたほうがいいですよということを言われることがあるんでしょうか?
B型肝炎の感染経路には、家族内感染があります。特に母親がHBs抗原陽性の場合には、子供の検査も必要なので「外来にお子さんを連れてきなさい」と指導して、小児科での肝炎検査をおこない、子供に感染しているのか、確認していました。
今もですか?
今はないですね。そういう方は激減しました。今の話は、30年前の話になります。今の外来では、HBs抗原陽性のお母さん自体がいなくなってしまったような気がします。
母子感染防止事業が始まる前に生まれた方で、今例えばお母さんの方が感染がわかった。ただ、その出産の時はまだ検査してなくてというような方でという事例は、今あまり考えられないですか。
妊婦に対するB型肝炎ウイルス対策として、まず、日本では妊婦に対するB型肝炎ウイルス検査は、ほぼ100%実施されています。もし妊娠中にB型肝炎の感染が判明しても、その後の対応や感染予防対策は確立されており、必要な児(赤ちゃん)にはB型肝炎ワクチンが投与されるため、安心してよい状況となっています。

国立病院機構長崎医療センター名誉院長/長崎県病院企業団企業長。肝臓内科が専門。「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班代表。

東京大学医科学研究所 特任教授。元は消化器内科が専門であったが、現在は感染症という切り口から肝炎を診ている。

東京肝臓友の会 事務局長。東京肝臓友の会では,日々電話相談窓口を設けて患者,家族の方から電話相談を受けており、今回の事例もその相談の一部です。

全国 B 型肝炎訴訟大阪弁護団弁護士。弁護団弁護士として主に肝炎患者さんの支援などを担当。

全国 B 型肝炎訴訟九州原告団。現在慢性肝炎を患いながらも,抗ウイルス薬でウイルスをコントロールしながら活動。

薬害肝炎全国原告団。東京肝臓友の会で電話相談を手伝っている。

日本医学ジャーナリスト協会会長、元朝日新聞編集委員。ジャーナリストとして肝炎の記事を数多く執筆。

佐賀大学医学部附属病院・肝疾患センター 助教。肝臓が専門。普段は「なんでも相談窓口」を担当している相談員も兼務。