偏見差別相談事例

患者さんやご家族から寄せられた
実際の相談事例を紹介しています。

C型肝炎の治療は完了しているにもかかわらず、毎年の大腸内視鏡検査のたびに肝炎のウイルス検査(HCV RNA検査など)を繰り返し受けており、その分の費用がかかっている。過去の検査結果(HCV抗体陽性)や治療の状況を毎年伝えても、今年も「決まりだから」の一言で検査を求められている。治療済みで毎年結果も出ているのに「決まりだから」という理由で費用のかかる検査は本当に必要なのか?

医療機関
ご相談者: C型肝炎の患者さん

このテーマについて、様々な立場の有識者が討論されている内容をご覧いただけます。スピーカーの発言の行間から、このテーマに根差す深い課題を共に感じて頂ければ幸いです。

司会

これもまたHCV抗体の話に関連してきますけれども、今の事例で確認しますが、そもそも内視鏡とかの検査の前にウイルス検査をする必要はあるのでしょうか? まずその点にについて、先生方のご意見をお聞かせいただければと思います。

医療従事者B

手術の時も内視鏡の時も医療者が検査をする大きな目的は医療従事者を守るためです。医療機関の立場から言えば、毎年かかってる人に、検査するかどうかは医者の判断ということになりますが、内視鏡検査の前に念のためにHCV検査をやっておきたい気持ちがあるのは、否めないと思います。C型肝炎に関しては、一回治ったものが再感染することはまずありません。C型肝炎の感染は明らかに血液に暴露することがなければ、まず起きないからです。そのことが我々医療従事者に対して充分に徹底してないというようなこともあるかもしれません。ただ、医療従事者としては、再感染・再燃が起きているのではという不安があります。ですのでやっぱり直近のRNA検査の結果を持参していただいて、今ウイルスは検出されないということをお示しいただくことが一番大事なんだろうなと思っています。

司会

医療従事者A先生。

医療従事者A

手術前の肝炎検査は現在も実施されていますが、内視鏡検査前の全例に対する肝炎検査は途中から取りやめになり、現在は実施されていません。以前はB型・C型肝炎の患者を検査の最後に回すなどの対応をしていましたが、今は、内視鏡検査ごとに必ず自動洗浄機で完全洗浄(標準予防策の徹底)をおこなうため、肝炎ウイルスの有無によって検査の順番を変える必要がなくなったからです。過去には洗浄不十分が原因で、ピロリ菌やノロウイルスなどの感染事例もありましたが、現在は標準予防策が徹底されており内視鏡検査による感染症の感染リスクは限りなくゼロとなっています。

司会

医療従事者C先生はいかがですか?

医療従事者C

医療従事者A先生がお話になられた通り、内視鏡を介して肝炎ウイルスが次の人に感染するかという観点からすると、今はもう洗浄が徹底しているので、肝炎ウイルス検査をする必要がなくなったというのは正しいと思います。あとは僕たち医療従事者が肝炎にかからないかっていう観点からすると、僕たちがやる胃カメラは、普通の検査だけではなくて、例えば食道静脈瘤が破裂したときに止血するとか、血液を浴びるような治療をしているので、その方が感染性があるウイルスを持っているかっていうのは調べたりします。それが毎年検査をする必要があるかっていうところは、判断が非常に難しいかなと思っています。通常、C型肝炎はちゃんと治療してウイルスが消えればもう出てくることは無いですけれども、再感染するリスクはあります。感染するリスクがある行為を本当に目の前の方がしているのか、していないのかというのは、ちょっと証明が難しいところもあるので、一年間検査してなければ再検査をすると決めている医療機関も多いです。これを一回検査すればもう一生しなくていいと言えるかというと、ちょっとそこは本当にいろんな事を考えないと決められないなと感じています。

司会

今の先生方のお話を聞くと問題点が二つぐらいにわけられるのかなと思います。一つは、いわゆる標準予防策でカバーできる。もし、他人に対して感染させるのであれば洗浄徹底すればいいんだ、というような方向で解決できるような問題と、それから手術をする側に感染させる可能性があるのではないかと。そういうためには念のため調べるという、その二つの問題点があるのかなというふうに考えますが、元患者Cさん、先ほど一つ前の事例で標準予防策っていう話をされましたけれども、今の話を聞いてもし何かありましたらお願いします。

元患者C

いつもシンポジウムで出てくる標準予防策の件なんですが、シンポジウムが始まった頃、歯科で標準予防策をきちんとやっていただければ、問診票にB型肝炎・C型肝炎と書かなくて良いと私たちは納得したものですから、とても患者として喜びました。でも、実際に手術をする時にはやっぱり肝炎の検査が必要という先生方のお話を聞いて、すごく重く受け止めているところです。医療従事者C先生のお話と同じで、いろんなパターンを考えて、例えばSVRでもう排除された方は証明書を持っていったら大丈夫と言われてとても皆さん安心されたと思うのです。が、やっぱりそれを排除できない患者さんもいるわけで、やはり私は毎回検査しなくちゃいけないんだとか、他の人に感染させるほどウイルス量が多いのだと思われて、そこらへんでまた患者の辛さが出てくるというのもあります。それから、言っても別に平気だよっていう人もいれば、言いたくない、本当にもう誰にも知られたくないという思いで病院へ行かれる方もいるので、その辺がどうにかならないものだろうかなと今ちょっと悶々として話を聞いていました。

司会

ありがとうございます。客観的なリスクとか、そういうのとは別にやっぱり患者の思いというか、気持ちの面もあるというかなり難しい問題だと思うんですけども、元患者Aさん、この事例に関して。

元患者A

実を言うと、これは私の事例なんです。大腸にポリープがあるので、毎年同じ病院に行って、内視鏡検査の前に毎年RNA検査、ウイルスの検査までするように言われるので、お金もかかるしうんざりなんです。今の先生方の話を伺うと、標準予防策を徹底してるのであれば検査はいらないよという側面と、それから医療者、検査をする側の方たちを守るというためには、やっぱり検査が必要だという側面があるというのは充分理解できます。そういう理由であれば納得ができるかなと思います。ただ、その部分を病院できちんと説明して頂いたら納得できますが、なんとなく悶々としたまま、いつもこうやって帰ってくるっていうのが実際のところです。

司会

ありがとうございます。元患者Bさん、何か?

元患者B

元患者Aさんも言われた標準予防策と手術する側を守るということ。それはやっぱり患者として知識として持っていかなきゃいけないことですし、患者同士でそういう情報交換をする必要があるのかなっていうことを感じながら聞いておりました。医療者側からとか検査技師側からの声かけの仕方がかなり関係ありますので、その辺はもうちょっと配慮してほしいという部分はあります。

医療従事者C

もう本当にその通りだと思います。医療者側も患者さん側も、お互いどういうことを考えているかがわかるだけで、思いや感じ方が随分と変わってくると思うんです。僕もこの研究に参加させていただいて、本当にそういった面を知ることができて、僕自身が多分患者さんに説明する声かけの仕方もだいぶ変わってきたと思います。ただこのような機会が得られる医師は多くはありませんので、僕らももちろん他の医療従事者に展開していきますし、それでもできてしまう隙間はやっぱり肝炎医療コーディネーターとかいろんな方に埋めていただくと、うまくいくのかなと感じています。

司会

ありがとうございます。この事例に関しては何かどうぞ。

会場参加者(Co看護師)

肝疾患コーディネーターの看護師です。感想になりますが私が肝疾患センターに所属する以前のことです。他の医療機関で内視鏡室の担当をしていました。医療機関によって違うかもしれませんが、以前は内視鏡洗浄機だけではウイルス非対応の洗浄液でした。現在の内視鏡洗浄機はウイルス対応の洗浄液なので検査の順番は関係なく実施されています。しかし以前の内視鏡洗浄機の場合は洗浄後に別の薬液で消毒をする必要があり時間がかかりました。そのためウイルス陽性の方は後回しになっていました。現在はウイルスの有無関係なく検査や治療ができるようになっていますので、医療機関の設備によっても対応が違うと思いました。

司会

ありがとうございました。

医療従事者A

内視鏡室では、3か月に一度、内視鏡からの菌検出がないか定期検査を実施しており、「洗浄された内視鏡は無菌状態である」ことが必須とされています。この徹底した標準予防策により内視鏡を介した感染(ノロウイルスなど)は限りなくゼロと考えられています。しかし、標準予防策を完全に実施するには多大なコストがかかります。たとえば、消耗品であるゴム手袋は、標準予防策を徹底するために看護師一人あたり一日に約60枚の手袋を使用します。この費用は、600人の看護師がいる病院で年間約3,000万円にもなり、わずかな単価の違い(例:手袋1枚5円を3円にする)でも数千万円のコスト差が生じます。また消耗品には輸入品が多く、円安や消費税増などの影響でコストが増加しています。病院は、コストと時間をかけてでも院内感染を絶対におこさないという強い思いで感染対策を徹底しています。したがって、私は、この徹底した感染対策があるため、内視鏡検査前の肝炎ウイルス検査は原則必要ないと考えています。

司会

ありがとうございました。それでは次の事例に行きたいと思います。よろしくお願いします。

スピーカー紹介
八橋 弘先生
八橋 弘先生

国立病院機構長崎医療センター名誉院長/長崎県病院企業団企業長。肝臓内科が専門。「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班代表。

四柳 宏先生
四柳 宏先生

東京大学医科学研究所 特任教授。元は消化器内科が専門であったが、現在は感染症という切り口から肝炎を診ている。

米澤 敦子氏 (司会)
米澤 敦子氏 (司会)

東京肝臓友の会 事務局長。東京肝臓友の会では,日々電話相談窓口を設けて患者,家族の方から電話相談を受けており、今回の事例もその相談の一部です。

中島 康之先生
中島 康之先生

全国 B 型肝炎訴訟大阪弁護団弁護士。弁護団弁護士として主に肝炎患者さんの支援などを担当。

梁井 朱美氏
梁井 朱美氏

全国 B 型肝炎訴訟九州原告団。現在慢性肝炎を患いながらも,抗ウイルス薬でウイルスをコントロールしながら活動。

及川 綾子氏
及川 綾子氏

薬害肝炎全国原告団。東京肝臓友の会で電話相談を手伝っている。

浅井 文和氏 (司会)
浅井 文和氏 (司会)

日本医学ジャーナリスト協会会長、元朝日新聞編集委員。ジャーナリストとして肝炎の記事を数多く執筆。

磯田 広史先生
磯田 広史先生

佐賀大学医学部附属病院・肝疾患センター 助教。肝臓が専門。普段は「なんでも相談窓口」を担当している相談員も兼務。

このサイトは「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班により運営されています