偏見差別相談事例

患者さんやご家族から寄せられた
実際の相談事例を紹介しています。

会社でこれまで肝炎ウイルス検査をしなかったのに、今年から始めると聞き悩んでいる。
受けなくても大丈夫か?何か言われそうで不安。

職場
ご相談者: B型肝炎の患者さん
A1回答1

会社における肝炎ウイルス検査は任意の検査であり、検査を受けたくない場合には受ける必要はありません。検査を勧められても検査を断ることができる制度となっています。「肝炎ウイルス検査は既に別のところで受けているので」と言われて検査を断ることも可能です。

A2回答2

労働安全衛生法で定められた健診項目以外である肝炎ウイルス検査結果は本人にのみ連絡され、会社(産業医であっても)がその情報を取得する場合は、あらかじめ本人の同意を得、本人を通して行うことが望まれています

*下記をご参照ください
会社が留意すること|会社の担当者へ|働く人の肝炎検査と治療ガイド (u-tokai.ac.jp)
肝炎セキュリティ (uoeh-u.ac.jp)

A3回答3

厚労省は,「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」を出しており,その中で「HIV感染症やB型肝炎等の職場において感染したり、蔓延したりする可能性が低い感染症に関する情報・・・については、職業上の特別な必要性がある場合を除き、事業者は、労働者等から取得すべきでない。」としています。したがって,会社がウイルス検査を強制することは出来ませんし,ウイルス検査を断っても全く問題はありません。

更に深く知りたい方に
司会

事例③は職場での問題です。ご相談者はB型肝炎の方で,「会社でこれまでウイルス検査をしなかったのに,今年から始めると聞き悩んでいます。受けなくても大丈夫でしょうか。何かいわれそうで不安です」というご相談です。

元患者A

この回答は検査を受けなくていいですよと申し上げています。現在職域において検査の機会が非常に増えていますが,これは国の肝炎対策の一環で,職域での肝炎ウイルス検査を推し進めることで,早期発見・早期治療により肝がんへの進行を防ぐということが目的になっています。

司会

実際に検査ということになると皆さん困られると思います。元患者Bさんはどう感じられますか。

元患者B

検査結果がどこで把握されているかが疑問なところがあると思います。きちんと管理されていれば患者も不安なく検査を受けられると思いますが,今の状態だとちょっと不安です。自分が肝炎患者であるということを認識している方は,もちろん受ける必要がないと私は思っていますが,人事課とか総務課などが把握しているようなところもまだあるわけで,検査を受けても心配,受けなくても心配という状態は困ります。患者の受け入れ体制をなんとかしてほしいなと思います。

元患者A

結果をどのように,どこで開示されるのか。二次利用みたいなことがないのかどうか。

元患者B

そうですね。人事課とか総務課が管理しているというのは,患者は怖いです。

元患者A

受けないとなぜ受けないのかといわれる。

元患者B

そうですね。

司会

そのへんは医療従事者D先生,いかがでしょうか。

医療従事者D

佐賀県でも実は職場での肝炎検査を進めて,反省点もあったのでお話しします。まず,医療従事者C先生の研究班で,職域で肝炎検査の受検を促す研究を実施されていますが,そのなかで肝炎検査を受けなかった理由は,「受ける機会がなかった。もし健康診断と一緒に受けることができれば受けた」という声が多かったという結果があり,2018年度から佐賀県では協会けんぽに加入されている事業所のところで健康診断を受ける際には佐賀県が補助をして無料で肝炎検査を受けられるという取り組みを始めました。この結果,肝炎検査が前年比で10倍ぐらいのペースで伸びて,われわれも喜んでいました。ところが相談窓口に相談があって,「自分の会社で肝炎検査が始まるけれども,自分は受けたくない。受けた方がいいのでしょうか?」とか,「自分は肝炎患者で会社には秘密にしているけれども,検査を受けないことでかえって目立ってしまうのではないか?」といったご相談がありました。そこは私たちも配慮が足りなかったと反省をした点でして,その方々にお伝えしたのは,今回健康診断で受けた結果は事業主に返りますが,ついでに受けた肝炎検査についてはあなたと県には結果が届きますけれど会社には届きませんということをお話しして安心いただく。後からの対策となってしまいましたが,この点に関しては,健診機関の方々に対してしっかり説明していくように私たちも気をつけています。肝炎検査については問診をとったうえで肝炎検査を受けていただいていますので,その際に以前受けたことがあるとお答えいただいた方には無料肝炎検査は行いません。ですから,問診のときに「もう検査は受けたことがあります」とおっしゃっていただければいいですとお答えしています。

司会

佐賀県はそういう丁寧な取り組みをなさっているにしても,ほかの県が同じことをなさってくれているかはどうでしょう?

元患者A

疑問ですね。

医療従事者B

ほかの県は肝炎検査を受けるかどうかという選択にはなっていなくて,基本必須で必ず受けるということでよろしいのですか。

医療従事者D

必須項目には入っていません。もともと職場の健康診断には肝炎検査は入っていないということと,あと本人の同意なしでは取得できないとされていますので,基本的には必須の検査ではないです。

医療従事者B

受けたくないと患者さんがいわれるのは悪いことでもなんでもないということですよね。でも実際にはおっしゃるように職場としてはみんなに受けさせたいということがあって,結局なぜ受けないのということで感染者の方に問い合わせがいって,感染者の方は嫌な思いをしている。その図式なわけですね。

元患者A

はい,そうです。

医療従事者A

職場検診は職場でするのですが,結果を産業医が把握するのは当然だと思いますが,人事部とか管理者が職場検診の結果まで知ってしまうというのはどうなんだろうと私は思いますが,そのあたりはどうなのですか。

元患者A

人事部の方たちは情報を共有しているということだと思います。

医療従事者A

産業医には知らせるべきだと思いますが,それ以外の人が知る必要があるのかと思ったりします。どうですかね。

医療従事者C

基本的に肝炎ウイルス検査結果は産業医にも伝えないで,本人のみに返すというのが一番正しい考え方になります。産業医の立場が「事業所側」なのか「従業員側」なのかの線引きは難しく,前者と考えると法定外検査結果を管理するには,健診受検者への周知が必要になります。

肝炎ウイルス検査結果に限ったことではなく,例えばがん検診,人間ドックなどはオプション検査結果なので,安全衛生法第66条に記載してる職場検診必須項目以外の結果を企業側が管理するとすれば,管理場所,異常結果に対する受診勧奨方法などを事業所の衛生委員会で決定し(議事録作成),Opt-out(管理されたくない人は申し出る形)でもよいので受検者に知らせる必要があります。肝炎ウイルス検査やストレスチェックなどの機密性の高い内容は,できるだけOpt-in(受検者の意志で申し込む)で行った方がよいとされます。

事業主としては「費用負担しているし,健康管理のためにも結果を健診受検者に告知することなく管理して当然」と思っている場合もあります。また受検者側もあまりに細かいことを気にしない方も多いと思われます。自分の病気を知られたくない人への配慮も忘れてはいけないのも事実で,先ほど述べたように,肝炎ウイルスやストレスチェックの結果の管理・異常値が出た場合の受診勧奨方法は明示しておかないと,このような質問がなくなりません。

弁護士

雇用管理分野における個人情報のうち,健康情報を取り扱うにあたっての留意事項というのが厚労省から通知が出されていて,そのなかでHIV感染症やB型肝炎など,職場において感染したり,蔓延したりする可能性が低い感染症に関する情報については職業上の特別な必要性がある場合を除き事業者は労働者などから取得すべきではないと明確にされているのですね。ただ,こういう規定をどこまで誰が意識しているかというところがかなり曖昧なのではないか,こういう原則をもう一度明確にしたうえで,本当に肝炎陽性者の情報を会社が取得すべきであるのかどうか,取得する必要性はどこにあるのかということを再度確認してもいいかもしれません。

医療従事者A

職場検診の結果という究極な個人情報に関しての扱いが曖昧なまま運用されている可能性があるということですね。検診は大切だけれど,個人情報が守られるのか,誰が閲覧するのか,誰が管理するのか,そういうことも事前に検診する人に説明すべきだと思います。肝炎に限らず意外とそこができていないのではないかと思いました。これは一つの問題提起です。

司会

ありがとうございます。

スピーカー紹介
八橋 弘先生
八橋 弘先生

国立病院機構長崎医療センター名誉院長/長崎県病院企業団企業長。肝臓内科が専門。「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班代表。

四柳 宏先生
四柳 宏先生

東京大学医科学研究所 教授。元は消化器内科が専門であったが、現在は感染症という切り口から肝炎を診ている。

米澤 敦子氏 (司会)
米澤 敦子氏 (司会)

東京肝臓友の会 事務局長。東京肝臓友の会では,日々電話相談窓口を設けて患者,家族の方から電話相談を受けており、今回の事例もその相談の一部です。

中島 康之先生
中島 康之先生

全国 B 型肝炎訴訟大阪弁護団弁護士。弁護団弁護士として主に肝炎患者さんの支援などを担当。

梁井 朱美氏
梁井 朱美氏

全国 B 型肝炎訴訟九州原告団。現在慢性肝炎を患いながらも,抗ウイルス薬でウイルスをコントロールしながら活動。

及川 綾子氏
及川 綾子氏

薬害肝炎全国原告団。東京肝臓友の会で電話相談を手伝っている。

浅井 文和氏 (司会)
浅井 文和氏 (司会)

日本医学ジャーナリスト協会会長、元朝日新聞編集委員。ジャーナリストとして肝炎の記事を数多く執筆。

是永 匡紹先生
是永 匡紹先生

国立国際医療研究センター・肝炎情報センター 肝疾患研修室長。消化器・肝臓内科が専門。

磯田 広史先生
磯田 広史先生

佐賀大学医学部附属病院・肝疾患センター 助教。肝臓が専門。普段は「なんでも相談窓口」を担当している相談員も兼務。

このサイトは「様々な生活の場における肝炎ウイルス感染者の人権への望ましい配慮に関する研究」の研究班により運営されています